大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

松江地方裁判所 昭和37年(ヨ)79号 判決 1964年6月04日

申請人 野津保夫

被申請人 日本合同トラツク労働組合 外一名

主文

被申請人日本合同トラツク株式会社は申請人に対し昭和三七年一〇月三〇日以降月額金一万八、七八二円の割合による金員を毎月末日限り支払え。

被申請人日本合同トラツク株式会社に対するその余の申請を棄却する。

被申請人日本合同トラツク労働組合に対する申請を棄却する。

申請費用は、申請人に生じた費用は申請人と被申請人日本合同トラツク株式会社との間においては二分の一を被申請人日本合同トラツク株式会社の負担とし、その余を各自の負担とし、申請人と被申請人日本合同トラツク労働組合との間においては全部申請人の負担とする。

(注、無保証)

事実

第一、双方の申立

申請代理人は被申請人日本合同トラツク株式会社(以下被申請人会社と総称する)に対し「被申請人会社が島根貨物株式会社名をもつて、昭和三七年一〇月二九日申請人に対してなした解雇の意思表示の効力を停止し、申請人が被申請人会社の従業員としての権利義務を有することを仮に定める。被申請人会社は申請人に対し昭和三七年一〇月三〇日以降月額金二万二、〇四三円の割合による金員を毎月末日限り支払え。」との裁判を被申請人日本合同トラツク労働組合(以下被申請人組合と総称する)に対し「被申請人組合が島根貨物労働組合名をもつて昭和三七年一〇月二五日申請人に対してなした除名の意思表示の効力を停止し、申請人が被申請人組合の組合員としての権利義務を有することを仮に定める」との裁判を求めた。

両被申請人代理人は本案前の申立として「申請人の本件申請を却下する。申請費用は申請人の負担とする」との裁判を求め、本案の申立として「申請人の本件申請を棄却する。申請費用は申請人の負担とする」との裁判を求めた。

第二、双方申立の理由

一、申請代理人は申請の理由として、

「(一) 訴外島根貨物株式会社(以下訴外会社と総称する)は貨物運送業を営んでいたが、昭和三七年一二月一日をもつて被申請人会社に合併し、右訴外会社の権利義務は包括的に被申請人会社に承継され、訴外会社の従業員は従前通りの職場で被申請人会社の従業員として稼働している。

訴外島根貨物労働組合(以下訴外組合)は訴外会社の従業員(会社の利益を代表する者及びこれを補助する者、本社部課長、営業所長及び次長、保安警備要員並びに雑役婦、期間を定めて雇入れた者、三ケ月以内の試傭期間中の者、嘱託その他会社組合双方協議の上定めたる者を除く)によつて組織された労働組合であつたが、訴外会社の合併に伴い被申請人組合と合併し、訴外組合の権利義務は包括的に被申請人組合に承継され、訴外組合の組合員は全員、被申請人組合の組合員としてその組織下にある。

ところで、訴外会社と訴外組合との間には昭和三六年四月以来労働協約が締結され、該協約第五条において「訴外会社は訴外組合が除名したものを解雇する」旨の所謂ユニオンシヨツプ条項の定めがあるが、申請人は訴外会社に昭和三五年八月一日、臨時職の運転手として期限を定めず雇傭され、同時に訴外組合の組合員としてその組織下にあつたところ、訴外組合は申請人に対し昭和三七年一〇月二五日、除名処分を行い、訴外会社は同月二九日右労働協約第五条に基き申請人を解雇した。

(二) 右除名処分及び解雇の経緯は次のとおりである。即ち、

(1)  申請人は訴外会社に入社以来、松江―広島線に配属され、訴外組合の広島線分会に所属し、活発に労働組合活動を行い、昭和三六年三月一二日訴外組合の大会代議員、組合執行委員に選出されたのをはじめとして、渉外部長、労働協約審議委員、事故対策委員、機関紙発行責任者となり、更に、昭和三七年度執行委員、事故処理委員、教宣部長、その他各種の訴外組合の重要ポストに選出されるなど、同組合の内部における最も積極的組合活動家の一人であつた。

(2)  ところで、昭和三七年七月八日訴外組合の臨時組合大会が開催され、その席上申請人の所属する広島線分会より、長距離線分会である大阪線分会及び広島線分会の要求として訴外会社に対し、旅費手当三〇〇円増額要求が提案されたが、その採否は後日執行委員会で決めることとなり、結局同月二一日右委員会において組合要求としての採決を拒まれ、分会要求として右分会において直接訴外会社と交渉することに決定された。

そこで右分会は、既に、七月一二日要求書を訴外会社に提出していたので、以後分会として訴外会社に旅費手当増額要求の回答を求めていた。

(3)  ところが、訴外会社は同年九月一一日突然申請人に対し、松江、広瀬線の若い運転手が車掌と仲が悪いので年令的にみて申請人なら車掌と折合もうまく行くとの理由で、広島線より広瀬線への配置転換を通告したが、右通告は明らかに前記旅費増額要求の分会活動に対する不当労働行為であるから、申請人は同月一三日訴外組合委員長に報告すると共に配置転換を不当労働行為として取りあげ交渉すべきであるとの署名を集める活動を始めた。

しかるに訴外組合の執行部は、その後明確な意向を表明しないので、申請人は委員長、書記長に右不当配転に対する組合の方針を早急に決定するよう再三申入れ、その結果漸く同月三〇日執行委員会開催の運びとなつたが、その際前記申請人の反対署名活動に同意し署名をなしたものは六〇名を超えていたところ、右委員会は申請人に対する配置転換を不当労働行為にあたらないとしたばかりでなく、かえつて、即日申請人の右反対署名活動を組合の統制違反として、申請人を査問委員会に付する旨の申請人としては、予想外な決定をした。

(4)  一方訴外会社は、更に同年一〇月一二日、申請人を臨時雇から本採用にしないことを決定し、その理由は申請人が事故多発者であるというのであるが、申請人の事故率は四、四(在社月数を事故回数で除した数)であり、申請人より成績の悪い者或は類似者は数名あるのに、本採用の拒否を受けた者は、申請人及び申請人以下の者一名であつて、これも訴外会社の不当労働行為たる差別取扱の濃厚なものである。

なお且つ、訴外会社は前同日訴外組合に対し申請人が履歴書に道路交通法違反の前歴を記載していなかつたことを理由として、懲戒解雇の申入れをなしたが、同月二七日右申入れを撤回し、三日間の出勤停止に変更した。

(5)  訴外組合の査問委員会は同月二四日前記申請人の署名活動を重大な組合統制違反と認定し除名相当の意見を具申し、翌二五日同組合執行委員会は申請人を訴外組合より除名する旨の決定をなし、その旨を訴外会社に通知し、訴外会社は同月二九日申請人に対し解雇を発令した。

(三) 訴外組合の申請人に対する右除名処分は組合規約の解釈を誤り、不公正な意図をもつてなされた違法、無効なものである。即ち、

(1)  申請人のなした配置転換反対の署名活動は統制違反行為ではない。

労働組合は労働者としての共通の立場にあるものが、使用者に対し団結して労働者の利益を擁護し発展させることを目的として組織されている以上、組織体としてこの労働組合の本質を破壊し又は団体としての行動を不能或は困難にする行為を統制する機能を有することは当然であるが、しかしながら、組合の目的を阻害し、組合の本質を破壊又は傷けようとするものでない各組合員の政治的、経済的な個人行動の自由まで統制の名の下に制限することはできないし、又一方、組合員は組合に対し自己の労働者としての利益の擁護を求め、組合執行部に総組合員の意思を表明して、組合活動にこれを反映させるよう努力し行動する権利を有し、組合執行部が組合統制権の名の下になす独裁を許容しない民主的権利を有するものである。

申請人が前記の如く配置転換の名による不当労働行為を訴外会社より受け、執行部の前記の如き曖昧な態度に対して、多数の現場労働者が申請人の主張に賛同している事実を示すために配転反対署名の運動をなしたとしても、これは組合員としての民主的権利であると同時に組合の力を増大させることこそあれ、組合の力を弱めるものではなく、現に六〇名もの現場組合員が署名に参加しており、これは明らかに組合員として執行部に対し会社の不当労働行為に対して戦うことを要求しているものである。

訴外組合が申請人の前記署名活動を統制違反と断じた理由は、申請人は訴外組合の執行委員であり、九月三〇日の執行委員会で申請人の配置転換につき協議することを知つておりながら、事前に署名活動をなしたのは訴外組合の下部を煽動し、執行部不信の念を組合員に植つけ、組合の弱体化分裂を導く行動であるというが、しかし、先ず組合執行委員は選挙により選任されたものであるが、選任後生ずる組合の総ての問題につき個別的、具体的に信任されたものではなく、包括的な委任を組合員より受けているに過ぎないから、選出後も不断に組合員の動向に注視し、その要求を掬み上げその意向を反映せしめる努力をなす義務があり、その義務を尽すことにより民主的組合運営が保証されるもので、署名活動は具体的問題に対する組合員の見解を執行部に反映させる方法であつて、これをもつて一般的に統制違反と断ずることはできない。次に、本件については申請人は執行委員ではあるが、自己の配転の問題であり自己の職場の組合員がこの問題をどのように見てどのように判断しているかを、客観的事実として執行委員会の討議の資料とする必要性からなしたものであり、しかも訴外組合規約のどこにも署名活動を禁止する規定もないのであるから、これを組合弱体化及び分裂の行為であると判断する理由は全然存しない。

(2)  仮に申請人の配転反対の署名活動が何等かの点で組合の統制を乱すものと見られるとしても、それが除名処分に相当する統制違反行為ではない。

訴外組合の組合規約第二〇条には除名の事由として、<イ>組合の目的に著しく違反した行為のあつたとき、<ロ>義務の履行を怠り改めないとき、<ハ>組合の名誉を著しく毀損したとき、<ニ>組合の統制秩序を著しく乱したときが挙げられ、一方労働協約第五条によれば組合が除名した組合員は会社はこれを解雇する定めとなつており、除名即解雇を意味する。従つて右組合規約第二〇条は慎重に正しく解釈されなければならない。

申請人の署名活動は、不当労働行為である配置転換に反対し、一身の保全を計るためでなく所属分会組合員の経済的地位向上のためにした行為が配置転換をもつて答えられるのを黙認すれば訴外組合の将来に禍根を残すことを憂い、さきに分会の旅費増額要求を組合として採決しなかつた執行部に対して、下部組合員の生活上の要求と組合に対する要求を明らかに示すためであつて、決して訴外組合を弱体化又は分裂させようという悪意は全然無いし、なお申請人自身極力訴外会社との摩擦を避けて配転には応じながら大局的立場から労働運動の正しい活動をなしたものである。

従つて、査問委員会に付されるや敢えて抗争せず陳謝の意を表しているのであつて、かかる申請人の行動は熱意ある労働運動家の善意の行き過ぎであり、組合の自主的規制の権、自治権に基く処分であるといつても、かかる申請人の行動が除名に値するとする判断は著しく常規を逸し、社会通念上許容し難く、思うに訴外組合の執行委員中の大部分が申請人の積極的活動に厭悪を感じ、申請人を訴外組合から排除するため除名権を乱用したものと考えられる。

(四) 訴外会社の申請人に対する解雇処分は無効である。即ち、

(1)  本件解雇は労働協約第五条によるもので、訴外組合の除名処分が有効であることを前提条件とするものであるから、前記のとおり除名処分が無効である以上解雇処分も当然その効力を発生しない。

(2)  附言すると今回の除名解雇は訴外会社と訴外組合と通謀による不当処分の疑いが濃厚であつて、前記経過をみると、訴外会社の申請人に対する配置転換、本採用拒否、懲戒解雇の申入、出勤停止三日間への変更、訴外組合の配転承認、査問委員会付託、除名決定といずれも相前後して行われており会社、組合共謀の尖鋭分子排除工作と見られても仕方がない。

(五) 仮処分の必要性について、

(1)  申請人は本件除名、解雇については、その無効確認を裁判上訴求する準備中である。

(2)  申請人には妻と子供四人があり、従来申請人と妻との共稼ぎで漸く生計を維持して来たものであつて、資産は何もなく、申請人が解雇になつてから一家の収入は妻の月額七、〇〇〇円たらずのみとなり、同年一〇月、一一月の二ケ月で既に一万四、〇〇〇円余の赤字負債を生じており、このままでは到底本案訴訟の遂行も困難であるのみならず、その間の生活自体が不可能となることは明らかであるので、仮に申請人の雇傭契約上の地位と組合員たる地位を定め、従来通りの就業及び給与の支払をさせる必要性がある。

(3)  申請人の解雇前の平均賃金は昭和三六年一二月より同三七年一〇月まで一一ケ月間合計手取り給与金二四万二、四八二円(賞与年二回を含む)の一ケ月分金二万二、〇四三円である。給与の計算は基本日給四五〇円、物価手当五〇円計五〇〇円が恒常的に支給される日給であり、賞与は年により異る。右金額は手取り計算であるから申請人は一一ケ月間に右金額に健保等諸控除を加えた額の給与を得ていたことになる。

(4)  訴外会社が本件申請の仮に申請人の雇傭契約上の地位を定める判決に対し、申請人を原職に復帰せしめ、解雇後の給与を将来に亘つても支払うならばよいけれど、前記経緯からして、又同種事件の一般例より見て原職復帰を認める可能性はなく、且つ給与の支払をなす見込もないから、申請人に償い難い生存上の損害を与えることを避けるため、訴外会社に最低の前記平均給与額を申請人に支払わしむる必要がある。

よつて、本申請に及んだ。」と述べた。

二、被申請両名代理人は申請却下の理由として、

「訴外組合は昭和三八年一月一三日をもつて解散し、仮に解散が認められないとしても同日消滅し、各組合員中訴外会社の臨時雇であつたものを除き個々的に被申請人組合に加入したものであつて、右両組合の間には同一性なく、申請人は訴外組合の組合員であつたが臨時雇であるから、仮に被申請人会社の従業員の地位が認められても被申請人組合に加入する資格はない。故に申請人の被申請人組合に対する申請は却下を免れ得ない。」と述べ、申請人の主張に対する被申請人組合の答弁として、

「(一) 申請理由(一)記載の事実中訴外会社が被申請人会社に合併し、それに伴い訴外組合が被申請人組合に合併した旨の主張を除き、その余の事実は全部認める。もつとも労働協約が締結されたのは昭和三七年三月一日である。

(二) 申請理由(二)の(1)記載の事実中申請人が訴外組合の渉外部長であつたこと及びその他の各種ポストに選出されたこと、申請人が活発な労働組合活動を行い組合内部における最も積極的な活動家の一人であつたとの事実は否認するが、その余の事実は認める。もつとも申請人は昭和三七年三月教宣部長に就任したが、それ以来毎月一回機関紙を発行すべき責任があるのに拘らず、申請人は唯の一回発行したに過ぎない。

(三) 申請理由(二)の(2)記載の事実中訴外組合の臨時組合大会の席上、広島線分会より大阪線、広島線の乗務員の要求として旅費手当三〇〇円増額の要望がなされたこと、同問題につき執行委員会が訴外組合全体の問題として取り上げなかつたことは認めるが、その経緯は次のとおりであり、その余の事実は否認する。即ち、

昭和三七年七月八日の臨時組合大会は、夏期一時金要求を主たる議題として開催されたところ、偶々その席上広島線分会より長距離線乗務員の現行六〇〇円の旅費手当を更に三〇〇円増額方の要望がなされ、右大会において検討の末、右要望を夏期一時金の要求と併せて訴外会社に要求するかどうかは後日の執行委員会で検討し決定することとなつた。同月二一日執行委員会を開催し右要望を検討の結果、当時訴外組合としては夏期一時金の要求に主力を注いでいたので訴外会社に対する要求は夏期一時金の要求一本に絞るのが良策であるとの結論に達した。というのは前記臨時大会において夏期一時金として四万円を訴外会社に要求することが決議され、組合は翌九日会社に対し要求書を提出し、同月二〇日第一回の団体交渉を持つたところ、会社側より一万三、〇〇〇円の回答があり、組合としては会社に強力に交渉を進める必要に迫られるに至つた。現に右執行委員会において会社回答を不満として交渉を進めるよう決議され、同月二四日第二回の団交をなしその直後執行委員会を開きスト予告をなすことを決議し、翌二五日訴外会社にスト予告をなし、同月三〇日、翌三一日の両日に第三、第四の団体交渉をなし、同年八月一日妥結した。なお旅費手当増額問題は組合員の一部である長距離乗務員だけの問題であるし、又当時、同訴外会社は同年九月一日をもつて被申請人会社に吸収合併せられる事情にあり、被申請人会社の旅費手当の実情を調査の上検討するのが妥当である点等を考慮の上、この問題は委員長に一任し、委員長において実情調査の上その責任において処理することに決定された。当時申請人も右委員会には執行委員として出席していたものである。

(四) 申請理由中(二)の(3)記載の事実中申請人が訴外会社から、その主張のように広瀬線への配置転換の通告を受けたことは認めるが、その理由については否認する。その余の事実中は配置転換が不当労働行為であること、執行部がこれについて明確な意向を表明しなかつたことは否認するが、その他の点は全部認める。もつとも申請人が訴外会社から配置転換の通告を受けた旨の報告は訴外組合書記長になされ、委員長に報告されたのは九月一六日である。

執行委員会が申請人を訴外組合の統制秩序を著しく乱すものとして、査問委員会に付する決議をなした経緯は次のとおりである。即ち、同年九月二一日訴外組合は申請人及び申請人と同時に広島線より平田線に配置転換をされた訴外小豆沢清の両名の配置転換につき、訴外会社と団体交渉をなしその理由を究明したところ、両名共に事故多発者で長距離路線には不適任であるから、ローカル線に乗務させて運転技術指導を行うためにとつた処置であることが判明した。そこで訴外組合は同月三〇日執行委員会を開催し検討の結果、配置転換については(イ)労働条件に変動がない場合は認める、(ロ)組合活動に制約がない場合も認める、(ハ)本人が希望又は了解すれば認める、(ニ)事故多発者については技術指導のため認めるとの基本的態度を決定し、本件の申請人等に対する配置転換は組合活動に対する弾圧とは認められず、事故多発者の技術指導のための配置転換であることを確認し、訴外会社の右処置を組合としては了承することとなつた。ところで右執行委員会は当日の午前一〇時より開催されたのに執行委員である申請人は出席せず、午后一時過ぎになり出席したので、既に決定した前記事項を示したところ、申請人は右決定は不服であると抗議し「野津さんへの不当な配転を撤回させるために」と題する訴外組合宛の署名文書を提示した。右文書は申請人の作成にかかるもので、その内容は配置転換は旅費手当増額の斗いに対する弾圧であること、配置転換により申請人の労働組合活動の時間が制限されること、我々労働者は団結して労働者の権利を守るための申請人に対する不当配転を撤回させる必要があり、訴外組合は労働者の権利を守るため我々の要求を先頭に立つて戦うことを要望する旨の記載があり、署名欄には申請人外五五名とあつた。それにつき執行委員会において討議しその結果、申請人は訴外組合の執行委員であるから執行委員会に臨みこの問題に対しては充分自己の主張を開陳し得るに拘らず、独自の見解で右のような署名運動をなしたことは、自己の独善的な考え方を執行部に強いるものであつて、組合運営上有害である。又、組合の下部を煽動し執行部不信の念を醸成させることは、ひいては組合の弱体化と分裂の危険を伴い、訴外組合の統制秩序を著しく乱した疑いがあるところから、執行委員会においては組合規則第二〇条第二項、査問委員会規則に従い査問委員会を組織し、申請人の統制違反の問題を付議することとなつたものである。

(五) 申請理由中(二)の(4)記載の事実中訴外会社が申請人の経歴詐称を理由として同年一〇月二三日懲戒解雇の発令をしたこと及び訴外会社は同月二七日右解雇を取消し出勤停止三日間に変更したことは認めるが、その余の事実は否認する。右経歴詐称を理由とする懲戒解雇は、同年一〇月一二日訴外会社より会社側四名組合側三名の委員により構成されている賞罰委員会が召集され、会社側委員より申請人には道路交通法違反の罰金刑が三回あるのに拘らず入社に際し提出した同人の履歴書には「罰なし」と記載し、経歴を詐称しているので処分したいとの提案があり、前後五回の審議がなされたが、組合側委員は終始反対したのに拘らず同月二二日懲戒解雇が会社側委員の賛成によつて可決された。そこで訴外組合は同日執行委員会を開き検討の結果、懲戒解雇の理由は薄弱であるからこれが撤回闘争をなすことを決議し、同月二五日、翌二六日の二回に亘り団体交渉をもち強力に撤回を要求したので、訴外会社も遂にこれを容れ同月二七日改めて賞罰委員会を召集して出勤停止三日間の処分に変更をみるに至つたものである。

(六) 申請理由中(二)の(5)記載の事実は全部認める。

(七) 申請理由中(三)、(四)記載事実は全部争う。訴外組合の申請人に対してなした除名処分は正当であり、その理由は次のとおりである。即ち、

(1) 訴外組合が申請人を査問委員会に付するに至つた経緯は前記(四)記載のとおりであり、査問委員会は昭和三七年一〇月二日、同月一四日、同月一七日、同月一八日の四回に亘り調査討議をなしたのに、申請人は右委員会の存在を認めない態度をとり、結局査問委員会は同月二四日第五回の会議において除名を決議し、直ちに執行委員会に具申した。執行委員会は翌二五日開催し査問委員会の具申に基き審議のうえ無記名投票により決議をなし、その結果は除名に賛成八票、反対一票により除名を決定し、なお同年一一月五日の組合臨時大会において右除名は承認された。

(2) 除名処分の理由は、前記(四)記載のように申請人が執行委員として執行委員会において十分自己の主張を開陳し得るのに独自の見解で署名運動を行つたことで、これは自己の独善的な考え方を執行部に強いる面で組合運営上有害であること、又組合の下部を煽動し執行部不信の念を醸成させ組合員に動揺を与えた点で組合の弱体化と分裂化の危険を伴つたこと、更に査問委員会の査問中たる一〇月七日日本共産党松江地区委員会名の「島根貨物のみなさんに訴える」と題するビラが配布されたが、その内容は(a)申請人は約一万円の減収であること、(b)組合活動時間が制限されること、(c)配置転換は不当であること等いずれも真実に反する記載がなされているのみか執行部の決定に対し真向から非難攻撃をあびせており、この文書は前記署名文書と同じくがり版刷りで、しかもその筆蹟、文章の表現等が酷似しており申請人もこれに関与している疑は充分であり、申請人のこのような外部団体による執行部に対する圧力は、前同様組合の統制上極めて悪い影響を及ぼしていること、次に同年九月三〇日、執行委員会において申請人の配置転換問題は訴外会社に組合活動弾圧の意図のないことを確認し、組合が右処分を承認したのに対し、執行委員である申請人としては当然これに従わねばならないのにこれに抗議し無視して従わなかつたこと、申請人は適法に成立した査問委員会の存在を認めなかつたこと、以上の申請人の行為はいずれも組合の団結維持のため必要な統制を著しく乱したものである。

(3) 訴外会社の申請人に対する前歴詐称を理由とする懲戒解雇処分には、訴外会社が行つたもので、これに組合が反対していた事情は前記(五)記載のとおりであり、訴外会社と訴外組合との間に本件解雇につき通謀の事実はない。

(八) 申請理由中(五)記載の事実は争う。」

と述べ、次で被申請人会社の答弁として、

「(一) 申請理由中申請人と訴外組合との間の内部事情については全部不知である。

(二) 訴外会社は正式に訴外組合からも同組合分会からも旅費手当増額の要求を受けたことはない。

(三) 訴外会社が申請人を広瀬線へ配置転換したのは、申請人が事故多発者であるため技術指導をすべくローカル線に配転したもので、組合活動に対する弾圧ではない。申請人と同時に訴外小豆沢清も広島線より平田線に同一理由で配転した。

(四) 訴外会社が申請人を解雇したのは労働協約第五条に基くものである。」

と述べた。

(疎明省略)

理由

一、訴外会社が貨物運送業を営んでいたこと、訴外組合は訴外会社の従業員中会社の利益を代表する者及びこれを補佐する者、本社部課長、営業所長及び次長、保安警備要員、雑役婦、期限を定めて雇入れた者、三ケ月以内の試傭期間中の者、嘱託、その他会社組合双方協議の上で定めた者を除いたその余の従業員によつて組織された労働組合であること、訴外組合と訴外会社との間には労働協約が締結され、該協約第五条において「訴外会社は訴外組合の除名した者を解雇する」旨の所謂ユニオン・シヨツプ条項の定めがあること、申請人は昭和三五年八日一日訴外会社に臨時雇の運転手として期限の定めなく雇傭され、その頃訴外組合の組合員たる資格を取得したものであること、ところが昭和三七年一〇月二五日、訴外組合は申請人を除名処分に付し続いて、訴外会社は、同月二九日右労働協約第五条に基き申請人を解雇したことはいずれも申請人と被申請人組合との間に争いなく、申請人と被申請人会社との間においては右事実中訴外会社が申請人を労働協約第五条に基き解雇したことは争いなく、その余の事実については被申請人会社は明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。

二、次に、訴外会社が昭和三七年一二月一日をもつて被申請人会社に吸収合併されたことは被申請人両名とも明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。そして、右合併により訴外会社の権利義務は包括的に被申請人会社に承継され、従つて訴外会社とその従業員との労働契約関係はそのまま被申請人会社に承継されたものというべきである。

三、訴外組合は被申請人組合に吸収合併されたかどうかについて

成立に争いのない疎甲第七号証の三疎乙第五号証、証人金津守の証言により真正に成立したと認めることのできる疎乙第七号証、証人角谷雄輔の証言によつて真正に成立したものと認めることのできる疎乙第一一号証並びに証人金津守及び同角谷雄輔の各証言を総合すれば、訴外組合はかねて訴外会社が被申請人会社に合併することが予測されるに伴い被申請人組合との合同(合併)を検討して来たところ、同三七年一二月一日を期し右合併が行われ訴外会社は被申請人会社広島分室松江支店となる見透しが濃くなつたことに対応し、同年一〇月二三日被申請人組合中央副委員長、同組合広島支部委員長等との間に、訴外組合は被申請人組合広島支部に合同し同支部松江分会となる、組合財産は右支部に合同する、分会の財政は支部統轄財政とし分会予備金の形をとる、右会社の合併が正式に発足した場合は可及的速かに広島支部との合同大会を開くこと等合同準備事項を打合せ、次で同年一一月四日の執行委員会において右広島支部に合同した場合の松江分会の組織、支部役員の選出方法並びに合併大会は広島支部、訴外組合ともほぼ同数の二〇名位の代表者により開催するとの意見を集約したこと、一方右合同にあたり訴外組合の組合員中臨時雇の者については、被申請人会社と被申請人組合間の労働協約覚書により本採用され社員とならない限り被申請人組合の組合員たり得ないと考えられていたこと、そのため訴外組合は臨時雇の本採用化を訴外会社と団体交渉した結果当時雇入後一年を経過していた本採用の有資格者八名中申請人外一名を除きすべて本採用となつたこと、訴外組合は同年一一月一一日臨時大会を開き以上の経過を報告して承認を得、同日右合同に備え組合員総数約二二〇名中傍系会社クラウンタクシーに勤務中の二〇名余はクラウンタクシー労働組合分会として独立するため脱退したこと、なおその際改めて合同のための大会を開く暇ない場合には前記広島支部との合同大会に参加する代表者に合同に関する手続を一任することの承認を併せ得たこと、同年一二月一日訴外会社の合併を見るにおよび、訴外組合は同三八年一月一三日広島市において、合同に関する手続を一任された代表者約二〇名により被申請人組合広島支部への合同を決議し、同支部との合同大会に臨み同支部松江分会を結成し支部執行委員等を選出したこと、その際臨時雇の者を除く全組合員は右代表者を介しそれぞれ右広島支部に加入の手続をとつたが、臨時雇のままの組合員は被申請人会社により合併後三ケ月の試雇期間経過後本採用となると同時に被申請人組合に加入の手続をとり全員同組合員となつたことを一応認めることができる。

以上認定の事実関係によれば、訴外組合と被申請人組合広島支部とは同三八年一月一三日広島市において合同に関する大会を開き、訴外組合は被申請人組合広島支部に吸収合同することを協定し、それぞれ右合同を決議して合同したものというべきである。もつとも右合同の決議に際し訴外組合の組合員中当時被申請人組合の組合員となる資格を有しないと考えられていた臨時雇約二〇名については、おそくとも、試雇期間三ケ月の経過により当然被申請人会社により本採用されること確実であり、それと同時に組合員資格を取得し被申請人組合に加入を認めることの了解のもとに訴外組合よりひとまず脱退したものと認むべく、従つて、訴外組合は右臨時雇の組合員が脱退した状態で被申請人組合広島支部に合同し、同支部松江分会として発足したものと解すべきである。

臨時雇を除く訴外組合の組合員全員が個別的に右広島支部に加入の手続を経たことは吸収合同の場合の一方法と見ることも可能であり、右合同の事実の認定を左右するものでない。被申請人等は訴外組合は同三八年一月一三日解散若しくは消滅し臨時雇以外の者が個々に被申請人組合に加入したのであるから両組合間に同一性がないと主張するけれども、訴外組合において先ず解散の決議を経たことを認め得る疎明がないばかりでなく、加入の形式を重視しその実質を無視して両組合の同一性を否定することは当裁判所の採用できないところである。右合同協定に際し両組合の組合員資格の相違の調整につき明白な取り決めは存しなかつたけれども、先に認定した如く組合員の一部がクラウンタクシー労働組合分会として独立するため脱退した事実もあり、また遠からぬ期間内に特別の事情のない限り臨時雇の者は全員被申請人会社に本採用され被申請人組合に加入し得ることが確実視されており、現にそのとおり実現していることを考え合わすときは臨時雇であつた組合員は右合同前ひとまず訴外組合から脱退することを承認していたと解するのが相当である。してみると、被申請人組合は被申請人会社が訴外会社を吸収合併したのに対応し訴外組合を吸収合同し、その地位を包括的に承継したものというべきである。

四、申請人は被申請人組合の組合員の地位を有するかどうかについて

後段認定のように申請人に対する本件除名並びに解雇処分が無効であり、申請人が被申請人会社の従業員の地位を有するとしても、それ故に当然被申請人組合の組合員の地位を有するとはいえない。すなわち、本件解雇当時申請人が訴外会社により本採用を拒否せられ臨時雇のままであつたことは当事者間に争いがなく、従つて申請人が訴外会社において試雇期間三ケ月を経過していたことも明らかであるから、被申請人会社が訴外会社と合併した当時既に同会社と被申請人間の労働協約覚書の定める試雇期間を経過し特別の事情のない限り本採用されるべき資格を有したというべきであるが、臨時雇の訴外組合員は前記合同の際一応訴外組合より脱退したものと見るべく、当時除名者として扱われていた申請人についても同様に考えるべきであるから右協約覚書一〇一および一〇二により被申請人会社により本採用され社員とならない以上当然に被申請人組合の組合員たる資格を有しないというほかない。してみると、被申請人組合に対し組合員たる地位を仮に定めることを求める申請人の申請はこの点において結局被保全権利の疎明がないものとして棄却を免れないというべきである。

五、従つて、以下被申請人会社に対する仮処分申請について判断する。

(一)  訴外組合が申請人に対しなした除名処分の正当性について、

(1)  成立に争いのない疎甲第一七、第一八号証及び右書証により真正に成立したものと認めることのできる疎甲第二号証、証人奥田重利の証言により真正に成立したと認めることのできる疎甲第六号証、証人奥田重利の証言、申請人本人尋問の結果並びに証人金津守及び同角谷雄輔の各証言の一部(後記措信しない部分を除く)によると次の事実を一応認めることができる。

(イ) 申請人は訴外会社に入社以来、松江―広島間のトラツク運転手として広島線に配属され、訴外組合の広島線分会に所属し、この分会を選出母体として昭和三六年三月一二日訴外組合の代議員、組合執行委員に選出されてから渉外部長、労働協約審議委員、事故対策委員、機関紙発行責任者をかね、翌三七年は再び広島線分会を選出母体として、組合執行委員に選出され、事故処理委員、教宣部長等の訴外組合における重要ポストにつき積極的に組合活動をなしていたこと、

(ロ) ところで昭和三七年七月八日、訴外組合は訴外会社に対する夏期一時金の要求を主たる議題として臨時大会を開催したが、その席上申請人の属する広島線分会より訴外組合中の長距離分会である大阪線分会及び広島線分会の乗務員の旅費手当三〇〇円の増額方を訴外会社に交渉して貰いたい旨の要望がなされ、審議の結果訴外組合としては、右要求を夏期一時金の要求と併せて訴外会社に交渉をするかどうかは後日執行委員会で検討の上決定することになつたこと、しかし広島線分会と大阪線分会は右執行委員会の決定を待たず同月一一日分会自体で直接訴外会社と交渉することを決め、訴外会社に対する要望書の作成及びこれが提出方を申請人に一任したので、申請人はかねて労働運動につき助言を受けていた訴外奥田重利に趣旨を伝えて要望書の作成を頼み、同月一二日申請人は右訴外人作成の疎甲第六号証の要望書を自己の上司である訴外会社の余村車輛課長に提出し、それに対する回答を同月一五日までにして貰いたい旨申込んだが、返答なく、その後も訴外会社は何らの回答をなさなかつたこと、

(ハ) 一方、訴外組合の執行委員会においては前記七月八日の臨時大会で夏期一時金として金四万円を要求することが決議されていたので、翌九日その旨の要求書を訴外会社に提出し、同月二〇日、これに対する第一回の団体交渉を訴外会社と行つたところ、会社側の回答としては一万三、〇〇〇円の線を主張して譲らず、その結果訴外組合としては今後強力に団体交渉を進める必要に迫られるに至つたため、翌二一日の執行委員会においてはかかる事情下にあるから組合員の一部である長距離乗務員だけの問題である旅費手当増額要求を夏期一時金と併せて交渉するのは精力を分散するもので妥当でなく、この際夏期一時金の要求に主力を注ぐのが良策であるとの考え、更に訴外会社は近々被申請人会社に吸収合併されることになつているので、旅費増額の点は一応被申請人会社の旅費手当の実情を調査の上交渉するのが妥当であるとの考えから採択を拒み、結局分会要求として直接訴外会社と交渉することになつたこと、

その結果訴外組合の訴外会社に対する要求としては、夏期一時金の要求一本に絞られ、執行委員会は会社回答を不満として同月二四日に第二回の団体交渉をなしたが解決せず、翌二五日訴外会社に対しストライキの予告をなし、同月三〇日、同月三一日の両日に第三回、第四回の団体交渉をなし同年八月一日にこれが妥結をみたこと、

申請人本人尋問の結果及び証人金津守、同角谷雄輔、同武田安磨の証言中以上の認定に反する部分は措信できず、他に右認定を覆すに足りる疎明はない。

(2)  成立に争いのない疎甲第八、第一七、第一八号証及び証人金津守、同角谷雄輔の各証言、申請人本人尋問の結果、証人武田安磨の証言の一部(後記措信しない部分を除く)によると次の事実を一応認めることができる。

(イ) 申請人は同年九月一一日訴外会社の宮川車輛部長から広瀬線の若い運転手が車掌と仲が悪いので年令的に申請人なら車掌とも折合がうまく行くと思うからとの理由で、広島線より広瀬線への配置転換の通告を受けたが、当時申請人としては前記のように大阪線分会及び広島線分会の中心となつて旅費手当三〇〇円の増額要求を訴外会社にしていたのに何等の返答もなされていない折でもあり、これは申請人の右組合活動に対する会社側の差別待遇であり、明らかに不当労働行為であると判断し、直ちに広島線分会で相談したところ、申請人の右推測に賛同し、直ちに訴外組合の三役に相談し組合として撤回させるべきだとの意見があつたこと、そこで申請人は同日訴外組合の植田俊造書記長に右事実を報告し善処方を求めたところ、右書記長から委員長が出張中なので今態度を決しかねるとの回答があり、申請人としては配転には応じないつもりであつたが組合が戦わないからには、個人として戦えないとの結論に達し已むなく同日から広瀬線の職場についたこと、

(ロ) そこで申請人は、同月一三日訴外組合の金津委員長に右配置換えの不当であることを説明し速かに執行委員会を開いて対策を協議するよう求めたが、同委員長は何れ協議決定するが忙しいので急に委員会を開けないと答え真剣に右問題を取りあげる態度を示さなかつたため、申請人としては委員長に不信を感じ広島線分会にて不満を述べたところ、分会員中からそれなら申請人の不当配転を訴外組合が取り上げ訴外会社に撤回要求をするよう署名運動をしてはどうかとの声があり、申請人は同月一五日疏甲第八号証の書面を作成し約五〇名の組合員の署名を集めたこと、

(ハ) 一方訴外組合の三役である金津委員長、角谷副委員長、植田書記長の三名は同月二一日申請人及び申請人と同時に広島線より平田線に配置転換をされた訴外小豆沢清の配転問題につき、訴外会社にその理由をただしたところ、会社側からは両名共に事故多発者であり長距離路線には不適任であるから、ローカル線に乗務させ運転技術指導を行うためにとつた処置である旨の釈明があつたが右組合三役はそれ以上深く確めることなく右処置をやむを得ないものと考え、同月三〇日訴外組合の執行委員会を開催し、配置転換についての委員会の結論をだすこととなり、同日午前一〇時に開催されたが、執行委員である申請人のみ出席せず、他の委員全員一致の意見で配置転換については(A)労働条件に変動のない場合は認める、(B)組合活動に制約がない場合も認める、(C)本人が希望又は了解すれば認める、(D)事故多発者の技術指導のためには認めるとの基本的態度を決定した上で、本件の申請人に対する配置転換は組合活動に対する弾圧とは認め難く、事故多発者の技術指導のため配置転換であり訴外会社の右処置を了承することになつたこと、

(ニ) そこで同日午后一時頃委員会に出席した申請人に対し、右委員会の決定を伝えたところ、申請人は右決定は不服であると抗議し、その際前記疏甲第八号証の「野津さんへの不当配転を撤回させるために」と題する訴外組合宛の申請人外五五名と記載した(署名捺印は申請人のみ)文書を示し、配転が旅費手当増額の戦いに対する弾圧であること及び訴外組合がそれがため戦うべきだとの意見に賛同し署名してくれた組合員が多数居る旨を述べたこと、

以上のとおり認められ証人武田安磨の証言中右認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を覆すに足りる疏明はない。

(3)  成立の争いのない疏甲第三号証の三、同第七号証の二及び三、同第一七、第一八号証、疏乙第二乃至第六号証、証人角谷雄輔の証言により真正に成立したと認められる疏乙第八号証並びに証人金津守、同武田安磨、同角谷雄輔の各証言、申請人本人尋問の結果によると次の事実を一応認めることができる。

(イ) 申請人の前記署名運動に対し、執行委員会は前同日直ちに、申請人は訴外組合の執行委員であるから執行委員会に出席して自己の配転問題に対し充分自己の主張を述べることができるのに拘らず、独自の見解でかかる署名運動をなしたことは、自己の独善的な考え方を執行委員会に強いるものであつて、組合運営上有害であるのみならず組合の下部組織を煽動し執行部不信の念を醸成させ、ひいては組合の弱体化と分裂の危険を伴うもので、訴外組合の統制を著しく乱した疑いがあるとして、執行委員会は組合規則第二〇条第二項、査問委員会規則に従い査問委員会を組織し、議長に訴外組合の角谷副委員長、副議長に訴外組合の金崎執行委員、委員にいずれも訴外組合の安部、安達、池尻、勝部の各執行委員が各選任して、申請人の統制違反問題を付議することとなつたこと、

(ロ) 査問委員会は同年一〇月二日に第一回、同月一四日に第二回、同月一七日に第三回、同月一八日に第四回が開催され調査討議がなされたが、その間申請人は右委員会の存在を認めないとの発言をしたこと、査問中の一〇月一七日、日本共産党松江地区委員会名の疏乙第二号証の「島根貨物のみなさんに訴える」と題するビラが組合員に配布され、その内容は(a)申請人は約一万円の減収であること、(b)組合活動時間が制限されること、(c)配置転換は不当である旨の記載がなされ、この文書は前記成立に争いのない甲第八号証の署名文書と同じガリ版刷りで、しかもその筆蹟及び文章等が酷似しているので査問委員会は申請人がこれに関与していると認め、申請人のこのような外部団体の力をかりての執行部に対する圧力は前述署名運動と同じく組合の統制上極めて悪影響を及ぼしていると判断したこと、

(ハ) その結果同月二四日査問委員会は、申請人が(a)組合が九月三〇日に申請人の配転問題をとり上げ審議することになつていたにも拘らずしかも執行委員であるのにこれを無視して署名運動を行つたこと、(b)右署名文書によると執行部不信の態度が明らかであること、(c)この署名運動にあたり職権乱用及び事実を曲げて署名を行わしめた事実があること、(d)組合内部はこの署名運動により著しく動揺していること、(e)本人は査問委員会構成後に委員会を認めようとせず機関決定を無視したことを理由に、申請人の右行為は訴外組合の組合規則第二〇条第一項第四号の組合の統制秩序を著しく乱したものとして除名相当であるとの意見を同日執行委員会に具申し、執行委員会は翌二五日査問委員会の右具申に基き無記名投票をした結果除名に賛成八票、反対一票により申請人の除名が決定したこと、

以上のとおり認められ右認定を覆すに足りる疏明はない。

(4)  成立に争いのない疏甲第一七及び第一八号証、疏乙第五号証、証人金津守、同武田安磨の証言により真正に成立したと認めることのできる疏丙第一及び第二号証、並びに証人金津守、同武田安磨、同角谷雄輔の各証言、申請人本人尋問の結果によると訴外組合と訴外会社はかねて臨時雇の本採用方を交渉中であつたが当時八名あつた該当者中六名の本採用を決定し、残つた申請人外一名については賞罰委員会に付議することとし、同年一〇月一二日に会社側四名、組合側三名の委員により構成されている第一回賞罰委員会が召集され、会社側委員より申請人には道路交通法違反により罰金一回と科料二回があるのに拘らず入社に際し提出した同人の履歴書には「罰なし」の記載をなし、経歴を詐称したので懲戒解雇にしたい旨の提案がなされ、その後五回に亘り審議をなし、組合側委員としては終始反対したのに拘らず同月二二日懲戒解雇が会社側委員の賛成によりて可決されたこと、そこで訴外組合は同日執行委員会を開き検討の結果右懲戒解雇の理由は薄弱であるからこれが撤回闘争をなすことを決議し、同月二五日、翌二六日の二回に亘り訴外会社との団体交渉の結果、訴外会社は遂にこれを入れ同月二七日改めて賞罰委員会を召集し申請人を出勤停止三日間の処分変更をなしたことを一応認めることができ、他に右認定を覆すに足りる疏明はない。

(二)  以上認定の事実によれば次のように判断し得る。

(1)  先ず、申請人は申請人の除名処分は訴外会社と訴外組合との通謀による不当処分の疑いが濃厚である旨主張するが、確かに訴外会社の申請人に対する配置転換、本採用の拒否、懲戒解雇の申入出勤停止三日間への変更及び訴外組合の配置転換の承認、査問委員会付託、除名決定はいずれも前記経過からみて相前後しており、その点からすれば多少疑いの余地がなくもないが前記(4)の認定事実からして速断することはできず他に右通謀の事実を認めるに足りる疎明はない。

(2)  次に申請人のなした配置転換反対の署名運動が統制違反行為となるか否かを考えるに、前記認定事実によれば訴外会社が申請人を広島線から広瀬線に配置転換を命じた理由につき、被申請人等は申請人は事故多発者であつて長距離線には適当でなくローカル線で技術指導をなす必要があるためであると主張し、確かに成立に争いのない疏丙第三号証及び証人武田安磨の証言によると訴外会社で調査をなした個人別車輛事故発生比率(在社月数を事故回数で除した数)の申請人の事故率は四、四であり必ずしも事故率の低い方であるとはいえないが、右表は事故の大小、内容等を一切区別していないうえ、申請人より成績の悪い者及び類似の者が数名にとどまらず、しかも申請人に対し配置換えの理由として広瀬線の運転手と車掌との折合をよくすることを強調しているふしも窺われ、特に申請人が長距離線の運転に未熟で技術指導を必要としたとは認められないから、前段認定のように申請人が旅費手当の増額の分会活動を活発に行つていた際に、しかも申請人を含めて臨時雇の本採用の問題が交渉されていたような時期に執行委員である申請人に対し配置転換を命じなければならない程さし迫つた必要があつたことは到底考えられない。従つて事故多発者で技術指導を必要としたことが右配置換えの決定的理由であつたことは認められない。しかも申請人は訴外会社に入社以来訴外組合の広島線分会に属し、これを選出母体として積極的に組合活動をなしていたものであるから、この配転により広島線分会との関係を切断され組合活動を従来より制限されるばかりでなく、基本給に変動はないとしても旅費手当、勤務手当の減少により実際上相当の減収を生ずることを考え合わすときは、右配置転換は申請人の組合活動を嫌悪する意図に出た差別待遇として訴外会社の不当労働行為の疑いが濃厚というべきであり、申請人が自己に対する不当労働行為にほかならないと信じたことはまことに無理からぬことである。それ故即日、申請人は訴外組合の執行部にこれが救済を求めたのに対し、執行部は前記認定のとおり誠意をもつて調査処理しようとする動きを示さなかつたため、申請人としては業務命令違反となることをおそれ已むなく配転命令に従つておる現状にあるところから、このような不当な処置がそのまま承認されるときは今後の正当な組合活動に悪影響を残すものと判断して、訴外組合執行部がこの問題を速かに正当に取り上げるよう促すため本件署名活動に踏切つたものと一応認めることができる。

もちろん、右署名運動がその文書の内容からして、単に訴外組合執行部に対する不当労働行為として取りあげることの働きかけのみでなく、これらの問題に対する従来の執行部の態度を批判する面を含んでいることは否定できない。しかし労働組合という組織体は本来少数意見を尊重し、批判と反批判の民主的討議の中で成立し、そこに団結力としての最高の機能を発揮する特質があり、組合員の内部からの批判をすべて統制権で封ずることは組合の自殺行為に等しいというべく申請人の右署名活動をいちがいに執行部に対し独善的意見を押しつけるものとして非難することはできない。もちろん批判の自由には一定の制約があり本件の如き、署名活動もそれをなす者の地位、対象、時期、方法如何によつては組合の統制違反として懲戒権の対象となり得る場合のあることは当然である。そして、単なる一組合員でなく執行委員の一員たる申請人が他の執行委員を充分説得せず、また所属の長距離線分会等の下部組織を通じて執行部に働きかける等の処置に出ることもしないで、直ちに自ら多数の組合員に暗に執行部批判の趣旨を含む文書に署名を求めるときは多かれ少かれ組合員間に不安や困惑の念をひきおこし、ひいては組合執行部に対する不信感を与えかねないというべきであるが、一面申請人が署名活動という緊急の手段を採らざるを得なかつたのは、日頃からいわゆる小数派に属し多少独走的傾向のある申請人の配置換えの問題であるにせよ、本来民主的であるべき組合の執行部として、一応不当労働行為の疑いをもつて申請人の申出を取りあげることが当然と考えられる場合であるのに、これに熱意を示さなかつたことに由来するものであり、申請人としては組合執行部に右問題を取りあげ検討することの要請を主目的としたものであるうえ、同組合の機関の決定のあつた後にこれを無視し攻撃せんとしたわけではなく、又署名文書自体に多少誇張した点あるいは不必要な点があるとしても、故意に著しく事実をまげたものでなく、全体として反組合的なものとは認められない。従つて申請人が右署名活動を介しことさらに組合執行部に対する不信感をあおり組合を分裂又は弱体化せんとする意図があつたとは認められないし、又現実に右活動により訴外組合の内部に分裂ないし弱体化のおそれを生ぜしめたことを認め得る疏明はない。

(3)  また査問委員会の調査中日本共産党松江地区委員会名義の被申請人主張のビラが訴外組合の組合員に配布されたこと及び右ビラの記載内容の資料の提供等につき申請人が全くの無関係でないことを一応認めることができるが、右ビラの配布に申請人が関与したことを認めるに足る疏明は存しないから、これをもつて申請人が組合の秩序を著しく乱したとすることはできない。

(4)  なお申請人が査問委員会の成立を認めようとせず、これを無視し自ら弁明の機会を抛棄したことは必ずしも良識ある態度といえないけれど、査問委員会の成立自体が極めて性急であり、査問委員が同委員会設置に賛成した執行委員会のみで構成されていることを考えれば、申請人の右行為により訴外組合の統制が乱されたとするに由ない。

申請人の以上各行為のほか被申請人が除名理由として主張する諸事情を合せ考えてみても申請人が訴外組合の団結維持のため必要な統制秩序を著しく乱したとは到底認めることはできないし、他に被申請人主張の除名事由を認めるに足りる疏明はない。してみれば、訴外組合の規約二〇条に定める除名事由たる組合の統制秩序を著しく乱したことに該当する事実が存在しないのにこれありとしてなした本件除名処分は懲戒権の濫用であり当然に無効というべきである。

六、申請人に対する解雇処分の効力等について

(1)  訴外会社の申請人に対する解雇処分は、労働協約第五条のユニオン・シヨツプ条項に基く解雇で訴外組合の除名処分が有効であることを前提として組合に対する義務履行として行われたところに法的根拠を有する解雇であるから前記の如く除名が無効である以上、解雇は法的根拠を欠き無効と解すべきである。

従つて、前記の如く訴外会社を吸収合併した被申請人会社と申請人との間には、なお雇傭関係が存続しているというべきである。

(2)  成立に争いのない疏甲第一一号証、同第一七及び第一八号証、申請人本人尋問の結果によると訴外会社における申請人の解雇前の基本日給四五〇円、物価手当五〇円計五〇〇円が恒常的に支給される日給で他に種々の手当を加え、申請人が昭和三六年一二月から同三七年一〇月までの間に得た手取り給与金は合計二四万二、四八二円であり、そのうちには賞与二回金三万五、八七〇円を含んでいること及び申請人が解雇された同年一〇月二九日分までの賃金は支払すみであることを一応認めることができ右認定に反する疏明はない。

ところで、右賞与金については、将来必ず支払われるという理由についての疏明が全然ないので、前記二四万二、四八二円より賞与金を差引いた二〇万六、六一二円を基本として平均賃金を計算すべきであり、そうすると、被申請人会社は申請人に対し右解雇の翌日である同月三〇日から月額一万八、七八二円の割合による平均賃金を毎月末に支払うべき義務があると認めるべきである。

七、被申請人会社に対する仮処分の必要性について

成立に争いのない疏甲第一〇、第一四、第一七、第一八号証、証人野津延子の証言により真正に成立したと認められる疏甲第九、第一五号証、証人野津延子の証言及び申請人本人尋問の結果によると、申請人は妻と四人の子供を抱え、従来申請人と妻との共稼ぎにより漸く生活を維持していたこと、他に格別の資力財産もなく、申請人が解雇失職してからは一家の収入は妻の月額七、〇〇〇円(昭和三八年四月より月額一万円)足らずで生計を立てることを余儀なくされ、同年一〇月、一一月の二ケ月で既に一万四、〇〇〇円余の赤字負債を生じ、昭和三七年一一月二八日より生活保護法による扶助を後日本案勝訴の折には返済する条件で受けておる現状にあり、このままでは到底訴訟の遂行が困難であるだけでなく、その間の生活が危険にさらされていることを一応認めることができる。

従つて、本案判決の確定をまつては回復することのできない右損害を避けるため本案判決確定に至るまで、仮に本件解雇の意思表示の効力を停止したとしても、弁論の全趣旨からして被申請人会社が申請人の原職復帰を認めない可能性が一応認められるので、前記月額手取平均額一万八、七八二円の割合による昭和三七年一〇月三〇日以降の賃金の支払を被申請人会社に仮になさしめることが相当である。しかしながら、申請人の被申請人会社に対する「仮に本件解雇の意思表示の効力を停止する。」との仮処分申請については、右のように賃金請求権に関して断行の仮処分を相当とする以上、更に重ねて賃金の任意の履行を期待することは利益なく、なお右賃金請求権の外に保全される雇用契約上の権利があるとの主張及び疏明がないから、結局右申請部分は棄却を免れない。

よつて、申請費用の負担については、民事訴訟法第九二条第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 五十部一夫 平田孝 山口和男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例